巧妙化し続ける不正利用に
対抗するために
Chapter 1
プロジェクトが始動した背景を教えてください。
Matsukiyo
国内の第三者によるクレジットカード不正被害額は年々増加しており、業界全体における2023年の被害額は年間540億円を超えました。これは、当社のみならず業界の重大な課題であることは間違いありません。当社では以前より不正検知システムを導入し、業界比高い不正抑止精度を誇っていましたが、不正利用の増加や手口の巧妙化に対して、これまで以上の抑止力で対抗していくためには、新たな打ち手を検討する必要がありました。
インターネットでの決済が増えたことで、不正抑止が非常に難しくなった側面もありますね。例えば、1回あたりの不正利用額が数百~数千円程度で長期間にわたって利用されているなど、カード利用者本人も不正に気付きにくいような手口が見られるようになりました。
Fukasawa
Matsukiyo
こうした不正被害に対して、AIツールを用いたデータ分析による不正検知ロジックの最適化や、リスクベース認証(※)といった不正抑止ツールの導入を進めるなど、これまでも様々な対策に取り組んできました。しかし、リアルタイムで取引を監視し不正懸念取引を検知する「モニタリング業務」においては、その取引が不正利用か本人利用かを判断するための相当な経験と知見や、不正取引を拒否するロジック(抑止条件)をシステム上に正確に設定するスキルが必要であり、人的コストや人材育成に関する課題がありました。
不正の件数や手口のパターンが増えることで抑止条件の数も膨大になっていくので、人の手でルールを設定することや一つ一つ抑止条件を管理することにもかなりの労力がかかっており、精度の維持に限界を感じていました。
Fukasawa
Matsukiyo
そこで、AIを活用した不正取引のスコアリング機能を導入することが検討される運びになったのです。
※リスクベース認証…不正利用の判定に使用する決済情報や会員属性情報に加え、デバイス情報やネットワーク情報を活用することで検知精度を高めたシステム。
培った専門知識や経験を、
AIに掛け合わせる
Chapter 2
プロジェクトを進めるうえで苦労したことはありますか。
Matsukiyo
2019年の構想段階から2023年1月のリリースまで、4年にわたる大規模なプロジェクトでしたね。まずは、システム開発部とシステム基盤・運用部に協力してもらい、複数のシステム構成を組んで実現可能性を見極めることから始まりました。
過去に例のないAI開発ということで、AIベンダー企業の選定にも苦労したことを覚えています。各社にAIモデルを作成してもらい、半年にわたって精度を比較検討しました。最終的にはPKSHA Technology社にご協力いただくことになりましたが、当社が求めるような保守品質(24時間365日)を保つためにも、既存のベンダーと対応範囲を整理するなど夜間休日も含めた障害発生時までを考慮して、お客さまに万が一の影響がないようにシステム設計に工夫を凝らしました。
Iwasaki
Fukasawa
新たな技術に挑戦することで不正抑止の精度が向上しても、その実現のためにお客さまのカード利用時の快適さが阻害されてしまっては意味がありませんからね。
ええ、その点では非常に慎重な検討を重ねました。不正検知システムとしての性能を担保しつつAIスコアを実行し、現在の利用環境から精度を落とさないことを意識しました。当初計画していた案では性能面での懸念があり、途中でシステム構築プランを変更したのですが、その判断が最終的な良い結果に繋がっていると思います。
Iwasaki
プロジェクト成功の鍵は何でしょうか?
Fukasawa
AIを導入するといっても初めから自動で不正取引のスコアリングを実施してくれるわけではなく、人間がAIモデルの教師データとなる不正取引をAIに学習させる必要があります。私たちモニタリングチームが培った知見を、どのようにAIの機能と掛け合わせて最善のパフォーマンスを出していくか。初めての経験でしたので、関係者全員でずいぶん試行錯誤しました。
不正のトレンドに迅速に対応していくためには、新たな不正取引の検知からそれをAIに学習させるまでのタイムラグを極力短縮させることが重要です。そのため、モニタリング業務担当者による判定結果を AI に迅速に学習させ、不正動向の変化に即時対応できるような仕組みを構築したことも精度向上の秘訣だと思います。
Matsukiyo
Fukasawa
現在の体制では、AIが算出したスコアを参照しながらモニタリングチームが最終的に不正利用か否かを判断しています。AIは、人には到底及びもつかない速度で膨大な数のルールを生成しスコアリングしてくれます。私たちの判断力でそれを適正に活用することができれば、かつてない成果が生まれることが分かりました。
システム開発面においては、理論的に結論のでなかった検討事項に関して、検証環境を用意して性能を実測できたことが、プロジェクト成功において影響があったのではと思います。仮に、過去の事例やコスト面だけで判断してシステムを設計していたなら、おそらく性能面の壁に突き当たり、計画通りのプロジェクト遂行が叶わなかったかもしれません。組織として柔軟な判断ができたことが、私たちチームとしても大きな収穫だったと感じます。
Iwasaki
この道のエキスパートとして、
お客さまの安心・安全・快適を支えていく
Chapter 3
今後の展望について教えてください。
Fukasawa
リリース直後はAIモデルの学習量が不十分で、正しくスコアリングが機能しないこともありましたが、粘り強く学習をサポートし育んでいくことでどんどん精度の高いスコアリングが実現できるようになりました。私たちのAIを非常に誇らしく感じるようになったと同時に、自分の仕事を通じて犯罪を抑止できていることに大きなやりがいも感じています。当社には専門領域のプロフェッショナル人材を育成する「エキスパート認定」という制度があります。私もこの認定を受けた者として、不正検知の分野を究めていきたいと思います。
私は今後、システム領域におけるエキスパート認定への挑戦を考えています。当社には多数のシステム開発案件がありますが、不正検知はクレジットカード会社にとって生命線ともいうべき重要なシステムです。キャリア採用で入社して以来、不正検知システムを担当してきましたので思い入れもあり、今後も新たな機能の導入に携わっていきたいです。
Iwasaki
Matsukiyo
私は、現部署に4年ほど在籍したのちにエキスパート認定を受けました。不正犯からカード会員や当社の資産を守るというこの仕事は、使命感にかられるだけでなく、正義感をくすぐられるのでとても楽しいです。当社が大切にしているのは、安全・安心そして「快適」にカードをご利用いただくことです。そのためにも、引き続き対策をアップデートし、お客さまの快適な日常生活を支えていきたいと思っています。